ベトナム戦争の米軍をリアルに描いた「プラトーン」2013年05月01日 11時35分40秒

オリバー・ストーン監督の「プラトーン」(Platoon、1986年)はベトナム戦争のアメリカ軍の実態をリアルに描いた初めてのアメリカ映画として高い評価を得ています。専門家たちの評価も高く、アカデミー作品賞ほか、数々の受賞をした映画となりました。

ストーリーはドラマチックではありませんが、世間知らずの若者クリス(チャーリー・シーン)がベトナム戦争に志願して、そこで現実の戦争の実態を知る、というのが全体的な構成です。その中で、有能な兵士ですが、冷酷無比で、ベトナム人を虐殺するバーンズ軍曹(トム・ベレンジャー)、バーンズと対立しながら、クリスをかばうエライアス(ウィレム・デフォー)などを中心に陸軍第25歩兵師団の中の小隊(プラトゥーン)が描かれていきます。戦闘のストレスから麻薬に走る兵隊たち、対立するエイリアスを戦闘のどさくさで殺してしまおうとするバーンズ、さまざまな人間の対立と友情があります。しかし、エイリアスはヘリボーン作戦で取り残されて、ベトナム解放戦線に撃たれてしまうのです。その倒れるシーンが非常にドラマチックで、ポスターにも大きく使われました。

この映画にインスパイアされた巨匠スタンリー・キューブリックがやはりリアルな戦争の実態を描いたのが「フルメタルジャケット」です。

なお、この「プラトーン」で映画初出演をしたのが、ジョニー・デップであり、ストーン監督は最初、ジョニー・デップを主演クリス役に考えていましたが、断られたにもかかわらず、映画に出演させたそうです。

後味の悪さだけが残る「エネミー・ライン」2013年05月02日 13時48分19秒

「エネミー・ライン」(Behind Enemy Lines、2001年)は見終わって、爽快感がまったくなく、後味の悪さの残る戦争映画でした。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争を背景にしたものですが、荒唐無稽さばかりが目について、映画を楽しむことができませんでした。

主人公クリス(オーウェン・ウィルソン)はアメリカ海軍の最新鋭戦闘攻撃機F/A-18Fの火器管制官でパイロットとともに、原子力空母カール・ビンソンから発艦して、ボスニア上空の哨戒活動に出発します。しかし、ボスニア上空でセルビア人武装勢力のSAM(対空ミサイル)により撃墜されてしまいます。このSAMの機動性がまずあり得ないのですが、まあそれはよしとしましょう。墜落したF/A-18Fから脱出した二人ですが、負傷したパイロットは武装勢力に追いつかれ、射殺されてしまいます。

クリスは必死に逃げ、セルビア人武装勢力の狙撃手や兵士達が後を追います。虐殺されたクロアチア人たちの死体の真ん中に落ちてしまったり、地雷原で身動きがとれなくなりながら、必死に逃げるのです。クリスから連絡を受けているレイガート司令官(ジーン・ハックマン)が救出に向かわせようとするのですが、和平終結を優先するNATO司令官が反対します。クリスは護衛用のM9拳銃一丁で、どうやって武装勢力から逃げ切れるのでしょうか・・・

ひとりで歩兵戦闘車まで持っている武装勢力に立ち向かう、というところからして荒唐無稽なのですが、ともかくすっきりしない映画でした。

奇抜な発想のアクションコメディー「Mr.&Mrs.スミス」2013年05月03日 15時47分23秒

「Mr.&Mrs.スミス」(Mr.&Mrs.Smith、2005年)は主演のブラッド・ピットとアンジェリーナ・ジョリーが結婚するきっかけになった映画と言われていますが、内容は奇抜というか、ハチャメチャなアクションコメディーです。

ジョン・スミス(ブラッド・ピット)とジェーンはたまたま知り合って結婚するのですが、じつはふたりとも殺し屋という設定なのです。ジョンは建築設計事務所を経営している、というのが表の顔です。そして妻ジェーン(アンジェリーナ・ジョリー)はコンピュータの管理者(アドミン)が表面的な仕事なのでした。ふたりはお互いにまったく気づかなかったのですが、ある暗殺の依頼で正体がバレてしまうのでした。それは、別々の依頼者に命じられた標的が同一人物だったのです。そして、お互いに邪魔をして、標的の暗殺に失敗してしまいます。

それぞれの依頼人から邪魔をした相手の殺し屋を始末するように言われたスミス夫婦はいろいろな銃器で撃ち合ったり、殴り合ったり、相手を殺そうとするのですが・・・

そして、ふたりが持ち出す銃器や兵器(対戦車ミサイルまで出てきます)がもう尋常ではないほどで、まるでガンマニアの監督が遊んでいるようなアクション映画です。まあ、個人的な感想としては、アメリカの女性とは結婚したくない、というのが本音ですね(笑い)。

女性暗殺者の悲しい運命を描いた「ニキータ」2013年05月04日 08時44分03秒

リュック・ベッソン監督の出世作であり、主演のアンヌ・パリローを一躍有名にした映画が「ニキータ」(La Femme Nikita、1990年)です。

警察の取締りに反抗して銃撃戦となった麻薬中毒の少年少女たちの中で、ひとり生き残って警官を撃ち殺した少女は終身刑を言い渡されます。名前を聞かれて「ニキータ」と名乗った少女(アンヌ・パリロー)は国家秘密警察の隠れ家で、暗殺者になるか、殺されるか、という二者択一を迫られ、暗殺者の道を選ぶのです。不良少女を一人前の女性に教育するのはその秘密警察のアマンド(ジャンヌ・モロー)、そしてニキータを監視し、いざというときにはニキータを殺す指令を受けている掃除人(ジャン・レノ)が登場します。

ニキータはボブという秘密警察員に暗殺者としての訓練を受けて、つぎつぎと暗殺の仕事をこなしていきますが、マルコという恋人ができます。ニキータはマルコに正体をわからないように暗殺を実行して行きますが、ある暗殺ミッションで失敗をして、掃除人が後片付けをします。そして、マルコにも正体がわかってしまったのでした。ニキータはマルコのもとを去って行きますが、じつはマルコも秘密警察員で、ニキータの監視役をしていたのでした・・・

ニキータが拳銃から自動小銃まで使って暗殺を実行するシーンの連続ですが、ニキータの無表情な中にも哀愁が漂う映画です。

なお、この映画はブリジット・フォンダ主演で「アサシン 暗・殺・者」(The Assassin、1993年)としてリメイクされますが、プロットは原作とほぼ同じです。アマンダ役はアン・バンクロフト、掃除人ビクターにはハーヴェイ・カイテルと大物が脇を固めています。ただ、個人的には原作と比べて、あまりいい出来とは思いませんでした。

キューブリックらしさにあふれた「FMJ」2013年05月05日 20時38分08秒

「フルメタル・ジャケット」(Full Metal Jacket、1987年)はベトナム戦争をテーマにした戦争映画ですが、鬼才スタンリー・キューブリック監督らしい異色のベトナム戦争ものとなっています。なお、Full Metal Jacketとは軍用小銃などの弾頭が完全に銅などで覆われていて、弾体の鉛が露出していないもののことで(ダムダム弾を禁止したハーグ陸戦条約に基づくもの)、ふつうFMJと略します。

前半はアメリカ軍海兵隊の訓練キャンプでのエピソードで、ハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)という鬼教官が新兵たちを徹底的にしごき倒します。主人公のジョーカー(マシュー・モディン)は軍曹の罵詈雑言にも平気で言い返すほどですが、同僚のレナードは太っていて動作がのろいなどで、ハートマン軍曹に徹底的にいじめられ、仲間からもリンチを受け、最終的には軍曹を射殺し、自分も自殺してしまいます。「微笑みデブ」と呼ばれ、存在感のある役でした。ジョーカーの仲間にはカウボーイと呼ばれる勇敢な兵士もいます。

後半はベトナム戦争の古都フエ(ユエ)でのベトコン(南ベトナム解放戦線)との市街戦で、ジョーカーの属する分隊は、分隊長がブービートラップ(手榴弾などを仕掛けたわな)にかかって戦死し、指揮を引き受けたカウボーイもベトコンの狙撃兵に撃たれてしまいます。ようやく、追い詰めた狙撃兵は少女だったため、ジョーカーたちは躊躇するのですが、「撃って」と懇願する負傷した少女に引き金を引くのでした。そして、ベトコンの攻勢をなんとかしのいだ海兵隊は「ミッキーマウス」の歌を歌いながら行軍していくのです。

ハートマン役のリー・アーメイは実際に海兵隊の元教官であり、その罵倒ぶりは真に迫っています。また、ジョーカーは「Born to Kill」(生まれながらの殺し屋)とヘルメットに書いていますが、この訳などを巡って、字幕担当の戸田奈津子から原田真人に替わっています。また、輸送ヘリコプターの機関銃手の「逃げるヤツはみなベトコンだ。逃げないヤツはよく訓練されたベトコンだ」と言いながら、機関銃を撃ちまくるシーンも有名になりました。

反戦映画と言われることもありますが、戦争の実相を描いたという点では、「プラトーン」をしのぐものがあると思います。

重いテーマですが、名画だと思う「暗黒街のふたり」2013年05月06日 10時49分34秒

ジャン・ギャバンとアラン・ドロンという、世代はちがいますが、ギャング役者として有名になったふたりの俳優が、保護司と元服役囚という役をみごとに演じきった映画です。最後のなんとも言いようのない、救いのないエンディングはこの映画を重いものしていますが、個人的には名画だと思っています。

監督はジョゼ・ジョヴァンニ、元マフィアだったと言われる人で、数々のフィルム・ノアール作品を生み出しています。そのジョヴァンニが単なるギャング映画ではなく、罪と罰、法治国家の矛盾を鋭く突いた作品がこの「暗黒街のふたり」(Deux Hommes dans la Ville、1973年)です。刑期を終えて出所し、更正しようと努力するジノ(ドロン)と、保護司で更正の手助けをするジェルマン(ギャバン)。ジノには恋人ルシー(ミムジー・ファーマー)ができ、なおさら人生をやり直そうと張り切るのですが、そこに現れたのは以前にジノを逮捕したゴワトロー警部(ミシェル・ブーケ)でした。ゴワトローは執拗にジノにつきまとい、ジノの更正を邪魔するように、元犯罪者であることを勤め先に密告するのです。

こうしてジノは更正したくてもできない方向に追い詰められて行くのです。そして、我慢の限界に達したジノはゴワトロー警部を殺してしまい、殺人罪に問われるのでした。

なぜゴワトローがそれほど執拗にジノにつきまとって邪魔をするのか、その理由は明らかにされませんが、一度罪を犯した人間は一生その罰を受ける、という意味なのか、それとも社会というものは不条理なものだ、という一種の実存主義なのか、メッセージは明確ではありません。にも関わらず、この映画に惹きつけられてしまうのです。

「怪傑ゾロ」の映画はやっぱりアラン・ドロン2013年05月07日 21時51分52秒

ジョンストン・マッカレーの小説「怪傑ゾロ」は何度か映画化されています。1920年にダグラス・フェアバンクス主演で「奇傑ゾロ」(The Mark of Zorro)として映画化されて以来、タイロン・パワー主演の「怪傑ゾロ」(The Mark of Zorro、1940年)、ガイ・ウィリアムズ主演の「怪傑ゾロ」(The Sign of Zorro、1958年)などがありますが、比較的最近ではアントニオ・バンデラス主演の「マスク・オブ・ゾロ」(The Mask of Zorro、1998年)があります。しかし、個人的にいちばん面白いのは「アラン・ドロンのゾロ」(Zorro、1975年)だと思っています。

アラン・ドロンが主演50作目の記念作品だから張り切ったのか、気持ち良さそうに怪傑ゾロを演じています。そして、オルデンシア姫のオッタビア・ピッコロの可愛さが印象に残っています。さらに、悪役の大佐であるスタンリー・ベイカーの好演も光ります。The Maskとはゾロがかぶっているマスクのことですし、The Markとはゾロが剣で相手の服に刻み込むZのマークのことを意味しています。なにしろ簡単なストーリーの勧善懲悪ものですが、こういう映画は主演によって決まります。アントニオ・バンデラスのゾロはなんとなく颯爽としていませんし、相手役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズがあまり決まっていない感じがしました。キャサリン・ゼタ=ジョーンズはやはり「エントラップメント」が最高だと思っています。

話がそれましたが、いまゾロをやるとしたら、やはりジョニー・デップでしょうか。でも、相手役の可愛い女性というのが、どうもハリウッド女優にはいそうもありません。ですので、「アラン・ドロンのゾロ」を超える「怪傑ゾロ」は作られそうもないと勝手に思っています。

妖しく美しく哀しい五社英雄「吉原炎上」2013年05月09日 09時05分36秒

五社英雄監督の「吉原炎上」(1987年)は吉原の花魁たち、とくに5人の運命を耽美的な映像で描き出した名作だと思っています。1908年の吉原遊郭を舞台に、身売りされてきた遊女たちのさまざまな人間模様が美意識にあふれた演出とたくみなカメラワークで撮影され、妖しく美しく哀しい物語が展開します。

主演の名取裕子はとくに好きな女優ではないのですが、このときはほんとうに初々しくて可愛く、そして演技も素晴らしい女優で、花魁を演じ切りました。また、かたせ梨乃、藤真梨子などの花魁もそれぞれの持ち味を良く出していました。さらに、根津甚八の遊び人も、吉原炎上のきっかけを作るのですが、哀愁ただよう演技でした。

そして、なによりも吉原炎上シーンの怖ろしくも美しいシーン。これも「風とともに去りぬ」ではないですが、フィルム時代ですから、CGもなにもなく(光学合成はあったかも知れませんが)、一発勝負の撮影の迫力に圧倒されます。

名取裕子が足抜けのための大金を「花魁道中」に使ってしまう、という心意気も見るものを泣かせます。五社英雄は裏の世界をぜんぶ知っていた人ですが、その耽美主義がこれだけの傑作を生み出したのだと思います。

監督は不満だったらしい「OK牧場の決斗」ですが2013年05月11日 09時07分50秒

ジョン・スタージェス監督の「OK牧場の決斗」(Gunfight at the OK Corral、1957年)は、ガンファイトシーンがスタージェスらしいテンポの良さで、退屈な「荒野の決闘」よりも好きな西部劇です。しかし、スタージェス監督はこの映画での銃撃戦シーンが気に入らなかったらしく、あとでもっと史実に忠実なOK牧場の決闘をモチーフにした「墓石と決闘」(Hour of Gun、1967年)を作っています。でも、個人的にはこの「OK牧場の決闘」はいかにも西部劇らしい西部劇映画で大好きです。

トゥームストーンに赴任してきた保安官ワイアット・アープにバート・ランカスター、親友の医者くずれの賭博師ドク・ホリディにカーク・ダグラスが扮しています。「荒野の決闘」のヘンリー・フォンダとビクター・マチュアとは対照的にマッチョな二人の主人公ですが、このあたりがスタージェス監督は気に入らなかったのかも知れません。たしかにバート・ランカスターは保安官というより軍人が似合うタイプですが、「ヴェラクルス」ではゲイリー・クーパーを食ってしまうほどの名演技を見せた俳優です。カーク・ダグラスはスタージェス監督のお気に入りのようで、「ガンヒルの決斗」、「ゴーストタウンの決斗」と同監督の「決斗三部作」の常連です。

この映画のヒロインはローラ(ロンダ・フレミング)です。アープとOK牧場で対決するクラントン一家のリーダーのビル(ビリー)にはデニス・ホッパーが扮しています。また、「荒野の決闘」ではクラントン一家の末っ子を演じたジョン・アイアランドが、この映画ではジョニー・リンゴ(リンゴ・キッド)として登場します。ジョン・フォード監督の「駅馬車」ではジョン・ウエインが演じたガンマンです。

そして、なんと言っても、作曲ディミトリー・ティオムキン、作詞ネッド・ワシントン、歌フランキー・レインというのが私にとっては嬉しい主題歌トリオなのです。

実話ベースの「太平洋の奇跡ーフォックスと呼ばれた男-」2013年05月12日 10時19分59秒

「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」(2011年)は、実話に基づいて、太平洋戦争末期のサイパン島の日米攻防戦をヒューマンなタッチで描いた日本映画です。1945年(昭和20年)8月15日の大日本帝国の降伏を知らずに、闘い続けたサイパン守備隊の生き残り47人のリーダー、大場栄大尉を中心に、アメリカ軍に対するゲリラ戦とする日本兵と女性や老人たちを描いた作品です。ドン・ジョーンズという元アメリカ兵が書いた実録小説を基にした映画化ですが、大場大尉は「フォックス」とアメリカ軍に呼ばれていたわけではありません。これは、アフリカ戦線で英米軍を翻弄し、「砂漠のキツネ(Desert Fox)」と呼ばれたドイツ・アフリカ軍団長のエルヴィン・ロンメル将軍からの連想でしょう。

大場大尉(竹野内豊)は大本営の命令どおりに全員玉砕を考えていましたが、民間人の女性や老人たちのために、突撃玉砕するのではなく、ゲリラ戦で戦おうと決めて、部下にも命令します。そして、圧倒的な兵力を誇るアメリカ軍に対し、ワナをしかけたり、奇襲をして、アメリカ軍を混乱させるのでした。アメリカ軍はなんとか投降させようと、ビラを撒いたりしますが、日本の敗戦を信じていない大場大尉はあくまで抵抗を続けようとするのですが、あることがきっかけで敗戦を知るのでした・・・

部下の一等兵に唐沢寿明、曹長に山田孝之、軍曹に岡田義徳、上等兵に柄本時生という中堅や若手俳優を使い、ヒロインは千恵子役の井上真央。そして、芸達者な阿部サダヲやベンガルなどが出演しています。井上真央はテレビドラマ出演のときから好きな女優なのですが、NHKドラマ「おひさま」でブレイクしましたね。また、竹野内の飄々とした演技も良かったです。