現実と妄想の間の不条理を描いた「タクシー・ドライバー」2013年05月17日 11時22分01秒

マーティン・スコセッシ監督の出世作であり、代表作でもある「タクシー・ドライバー」(Taxi Driver、1976年)は不条理をテーマにした実存主義的な映画だと思っています。主人公トラビス(ロバート・デ・ニーロ)はベトナム戦争帰りの元海兵隊員で、戦争によるPTSDで精神を病んでいます。それに追い打ちをかけるのが、ガールフレンドに振られたことで、ますます孤独感を深めて行きます。そんなトラビスが心の拠り所としたのは銃器で、射撃訓練に励みますが、それが強盗を退治するのに役立つのでした。そして、少女アイリス(ジョディー・フォスター)と出逢うのですが、アイリスは少女売春をしているのでした。トラビスは説得してやめさせようとしますが、アイリスは言うことを聞きません。そこで、トラビスは完全武装をして、売春宿に乗り込み、用心棒や、アイリスを働かせている男や、売春の客までも射殺しますが、反撃されて重傷を負います。しかし、一命をとりとめたトラヴィスは英雄扱いされて、新聞に載り、一躍正義のヒーローになるのでした。しかし、トラビスはまたタクシー運転の日常へと戻っていくのです。スコセッシが描写したかったのは、不条理な現実世界だったのでしょう。しかし、この映画に影響を受けたジョン・ヒンクリーJrがレーガン大統領暗殺未遂事件を起こして、別の話題を提供しました。

主演のデ・ニーロはこの映画の前にフランシス・フォード・コッポラ監督に見いだされて、「ゴッドファーザーPARTII」で若きマフィアの首領、ヴィト・コルレオーネを演じています。これでアカデミー助演男優賞を獲得したデ・ニーロがスコセッシ監督と撮った二番目の作品がこの「タクシー・ドライバー」でした。以降、スコセッシ監督とはいくつもの作品を作ってきて、演技力の高さで評価は高まり、「レイジングブル」ではアカデミー主演男優賞を受賞しました。コッポラ監督の「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」のヌードルス役や、デ・パルマ監督の「アンタッチャブル」のカポネ役も評判になりました。

アイリス役のジョディー・フォスターはこの映画で高い評価を受け、一時芸能界を引退しますが、「羊たちの沈黙」でアカデミー主演女優賞を受賞し、以降は女優だけでなく、監督やプロジューサーとしても活躍しています。この映画は主演の男優、女優、監督をメジャーにした記念すべき映画と言っていいでしょう。

フランス海軍が全面協力した「頭上の脅威」2013年05月16日 13時46分46秒

「トップガン」や「ファイナル・カウントダウン」はアメリカ海軍全面協力の映画で、とくに後者はタイムスリップというSFネタになっていますが、フランスにも海軍が全面協力したSFスリラー「頭上の脅威」(La Ciel sur la Tete、1965年)があります。空母クレマンソー、艦載攻撃機のダッソー・エタンダールなど、実際の艦船や航空機を飛ばして、「未知の敵」に対峙する空母クレマンソーとパイロットや乗員たちの姿を描く軍事サスペンスです。なお、原題は「頭上の大空」という意味で、「脅威」という意味はまったくありません。

空母クレマンソーが訓練航海から帰投する途中、緊急事態が発生して、エタンダール攻撃隊は警戒レベルを上げます。どうやら未確認飛行物体が発見されたようで、それがどの国のものだかわかりません。もしかすると、仮想敵国ソ連の新兵器かも知れない、ということで、エタンダールは空対空ミサイルを搭載して発艦します。しかし、その未確認飛行物体はどうやら放射能を帯びていて、また通常の航空機にはできないような飛行ができるようです。おまけに、スクランブル発進したエタンダールは放射能に汚染され、艦上で核汚染を取り除く作業が行われ、緊張はさらに高まります。残りのエタンダール攻撃隊には核ミサイルを搭載するようにという命令が下り、いよいよ第三次世界大戦が始まるのか、と思わせます。

そして、エタンダール攻撃機だけでなく、空母クレマンソーの計器も暴走し始め、手がつけられない状態になりました。フランス政府がソ連政府やアメリカ政府と連絡をとり、この未確認飛行物体はどうやら地球外のものだと判明。米ソは長距離対空ミサイルを発射して、未確認飛行物体を撃墜しようとしますが、物体はミサイルがおよばない高速で大気圏外に離脱していきます。「頭上の脅威」は去って、乗組員たちはなにもない青空を見上げて、安堵のため息をつくのでした。

フランス海軍全面協力で、空母や艦載機の実写が見られるので、軍事マニアには嬉しい映画なのですが、最後が尻切れとんぼになってしまっていますね。

CGでは得られない迫力「トラ・トラ・トラ!」2013年05月15日 06時04分26秒

「トラ・トラ・トラ!」(Tora!Tora!Tora!、1970年)は戦争映画のベスト10入りは間違いないでしょう。日米開戦前夜のコーデル・ハル長官(ジョージ・マクレディ)と日本側のやりとりとか、大日本帝国海軍連合艦隊の攻撃を事前に察知していながら、ハワイの太平洋艦隊司令長官ハズバンド・キンメル大将(マーティン・バルサム)に知らせなくて、キンメル将軍が迎撃態勢を取らずに完全な不意打ちを許してしまったところ。そして、山本五十六連合艦隊司令長官(山村聡)と軍令部とのやりとりなど、真珠湾攻撃の前夜がみごとに描かれています。タイプライターの遅れから、野村駐米大使(島田正吾)がハル長官に真珠湾攻撃が始まった直後に宣戦布告文書を渡すシーンも印象に残っていますね。

そして、単冠湾に終結した連合艦隊が12月8日の攻撃開始指令を受けて、赤城、加賀、蒼龍、飛龍の各空母から艦爆、艦攻、そして戦闘機が朝日の中を飛び立って行く瞬間の描写。ゼロ戦はノースアメリカンT-6テキサン、九九式艦爆はバルティーBT-13など、日本機になるべく似たような実機を使っています。そして、攻撃されたアメリカ側もカーチスP-40やベルP-39など実機を使っています。そして、戦闘には参加しませんが、B-17爆撃機も本物です。ヒッカム飛行場が攻撃されて燃え上がるシーン、戦闘機が火だるまとなって吹っ飛ぶシーンなどは一発勝負で撮影されたものです。CGでは絶対に出せない迫力となっています。

そして、人間性の描き方もていねいで、素晴らしい映画になっていますね。たとえば、キンメル長官の最後に涙をこぼすシーンもそうですが、猪突猛進のウイリアム・「ブル」・ハルゼー中将が空母機動部隊を率いながら、連合艦隊の空母を発見できなかった悔しさ。二次攻撃の必要があるとの打電を受けながら、それをやめて帰投を命令する南雲忠一中将(第一航空艦隊司令長官)、空母赤城の飛行隊長淵田美津雄中佐(田村高廣)の関西弁丸出しの「トラ、トラ、トラや!」と無線に向かって叫ぶシーン。渥美清の炊事係が同僚の松山英太郎と、「日付変更線を超えて撃ったら、昨日に向かって撃つことになるから、弾丸は届きっこない」と冗談をいうシーン(これは後にカットされます)、など例を挙げればきりがありません。

日米合作のハリウッド映画なのですが、リチャード・フライシャー監督、そして舛田利雄監督と深作欣二監督、とスタッフも豪華です(黒澤明監督は途中で交代)。

変わり種のサスペンス映画「マラソンマン」2013年05月14日 12時57分35秒

「マラソンマン」(Marathon Man、1976年)は同名の小説を映画化したものですが、いわゆるサスペンスものとはちょっとちがうサスペンス映画ですね。「マラソンマン」とは文字どおり、マラソンをする人のことで、ニューヨークのセントラルパークをマラソンするのが好きな主人公で、コロンビア大学院生ベーブ(ダスティン・ホフマン)が旧ナチスの陰謀に巻き込まれていく映画です。

ナチス親衛隊の歯科医だったゼル博士(ローレンス・オリヴィエ)が得意の歯科術を発揮して、誘拐したベーブに真相を知っているかどうかを白状させようと、歯にドリルを突き刺すシーンがなんと言っても、いちばん怖いですね。とくに、歯医者嫌いの人は悲鳴を上げるかも知れません。このゼル博士のモデルは言うまでもなく、ナチスの強制収容所でユダヤ人囚人たちの人体実験を行ったとされているヨーゼフ・メンゲレ博士です。この映画ではウルグアイに逃亡していますが、アメリカから大量のダイアモンドを非合法に持ちだそうとしている、という設定です。

実際のメンゲレ博士はアルゼンチンに逃亡したと言われていますが、ナチスはいまでも欧米人の悪夢であり、「ブラジルから来た少年」もナチスのアーリア人種の優生製作を描いていますね。また、フレデリック・フォーサイスの小説「オデッサ・ファイル」もナチス残党の活動を描いたもので、ジョン・ヴォイト主演で1974年に映画化されています。

この「マラソンマン」は地味な映画ですが、サスペンス好きにはぜひお奨めしたい映画です。

実話ベースの「太平洋の奇跡ーフォックスと呼ばれた男-」2013年05月12日 10時19分59秒

「太平洋の奇跡-フォックスと呼ばれた男-」(2011年)は、実話に基づいて、太平洋戦争末期のサイパン島の日米攻防戦をヒューマンなタッチで描いた日本映画です。1945年(昭和20年)8月15日の大日本帝国の降伏を知らずに、闘い続けたサイパン守備隊の生き残り47人のリーダー、大場栄大尉を中心に、アメリカ軍に対するゲリラ戦とする日本兵と女性や老人たちを描いた作品です。ドン・ジョーンズという元アメリカ兵が書いた実録小説を基にした映画化ですが、大場大尉は「フォックス」とアメリカ軍に呼ばれていたわけではありません。これは、アフリカ戦線で英米軍を翻弄し、「砂漠のキツネ(Desert Fox)」と呼ばれたドイツ・アフリカ軍団長のエルヴィン・ロンメル将軍からの連想でしょう。

大場大尉(竹野内豊)は大本営の命令どおりに全員玉砕を考えていましたが、民間人の女性や老人たちのために、突撃玉砕するのではなく、ゲリラ戦で戦おうと決めて、部下にも命令します。そして、圧倒的な兵力を誇るアメリカ軍に対し、ワナをしかけたり、奇襲をして、アメリカ軍を混乱させるのでした。アメリカ軍はなんとか投降させようと、ビラを撒いたりしますが、日本の敗戦を信じていない大場大尉はあくまで抵抗を続けようとするのですが、あることがきっかけで敗戦を知るのでした・・・

部下の一等兵に唐沢寿明、曹長に山田孝之、軍曹に岡田義徳、上等兵に柄本時生という中堅や若手俳優を使い、ヒロインは千恵子役の井上真央。そして、芸達者な阿部サダヲやベンガルなどが出演しています。井上真央はテレビドラマ出演のときから好きな女優なのですが、NHKドラマ「おひさま」でブレイクしましたね。また、竹野内の飄々とした演技も良かったです。

監督は不満だったらしい「OK牧場の決斗」ですが2013年05月11日 09時07分50秒

ジョン・スタージェス監督の「OK牧場の決斗」(Gunfight at the OK Corral、1957年)は、ガンファイトシーンがスタージェスらしいテンポの良さで、退屈な「荒野の決闘」よりも好きな西部劇です。しかし、スタージェス監督はこの映画での銃撃戦シーンが気に入らなかったらしく、あとでもっと史実に忠実なOK牧場の決闘をモチーフにした「墓石と決闘」(Hour of Gun、1967年)を作っています。でも、個人的にはこの「OK牧場の決闘」はいかにも西部劇らしい西部劇映画で大好きです。

トゥームストーンに赴任してきた保安官ワイアット・アープにバート・ランカスター、親友の医者くずれの賭博師ドク・ホリディにカーク・ダグラスが扮しています。「荒野の決闘」のヘンリー・フォンダとビクター・マチュアとは対照的にマッチョな二人の主人公ですが、このあたりがスタージェス監督は気に入らなかったのかも知れません。たしかにバート・ランカスターは保安官というより軍人が似合うタイプですが、「ヴェラクルス」ではゲイリー・クーパーを食ってしまうほどの名演技を見せた俳優です。カーク・ダグラスはスタージェス監督のお気に入りのようで、「ガンヒルの決斗」、「ゴーストタウンの決斗」と同監督の「決斗三部作」の常連です。

この映画のヒロインはローラ(ロンダ・フレミング)です。アープとOK牧場で対決するクラントン一家のリーダーのビル(ビリー)にはデニス・ホッパーが扮しています。また、「荒野の決闘」ではクラントン一家の末っ子を演じたジョン・アイアランドが、この映画ではジョニー・リンゴ(リンゴ・キッド)として登場します。ジョン・フォード監督の「駅馬車」ではジョン・ウエインが演じたガンマンです。

そして、なんと言っても、作曲ディミトリー・ティオムキン、作詞ネッド・ワシントン、歌フランキー・レインというのが私にとっては嬉しい主題歌トリオなのです。

妖しく美しく哀しい五社英雄「吉原炎上」2013年05月09日 09時05分36秒

五社英雄監督の「吉原炎上」(1987年)は吉原の花魁たち、とくに5人の運命を耽美的な映像で描き出した名作だと思っています。1908年の吉原遊郭を舞台に、身売りされてきた遊女たちのさまざまな人間模様が美意識にあふれた演出とたくみなカメラワークで撮影され、妖しく美しく哀しい物語が展開します。

主演の名取裕子はとくに好きな女優ではないのですが、このときはほんとうに初々しくて可愛く、そして演技も素晴らしい女優で、花魁を演じ切りました。また、かたせ梨乃、藤真梨子などの花魁もそれぞれの持ち味を良く出していました。さらに、根津甚八の遊び人も、吉原炎上のきっかけを作るのですが、哀愁ただよう演技でした。

そして、なによりも吉原炎上シーンの怖ろしくも美しいシーン。これも「風とともに去りぬ」ではないですが、フィルム時代ですから、CGもなにもなく(光学合成はあったかも知れませんが)、一発勝負の撮影の迫力に圧倒されます。

名取裕子が足抜けのための大金を「花魁道中」に使ってしまう、という心意気も見るものを泣かせます。五社英雄は裏の世界をぜんぶ知っていた人ですが、その耽美主義がこれだけの傑作を生み出したのだと思います。

「怪傑ゾロ」の映画はやっぱりアラン・ドロン2013年05月07日 21時51分52秒

ジョンストン・マッカレーの小説「怪傑ゾロ」は何度か映画化されています。1920年にダグラス・フェアバンクス主演で「奇傑ゾロ」(The Mark of Zorro)として映画化されて以来、タイロン・パワー主演の「怪傑ゾロ」(The Mark of Zorro、1940年)、ガイ・ウィリアムズ主演の「怪傑ゾロ」(The Sign of Zorro、1958年)などがありますが、比較的最近ではアントニオ・バンデラス主演の「マスク・オブ・ゾロ」(The Mask of Zorro、1998年)があります。しかし、個人的にいちばん面白いのは「アラン・ドロンのゾロ」(Zorro、1975年)だと思っています。

アラン・ドロンが主演50作目の記念作品だから張り切ったのか、気持ち良さそうに怪傑ゾロを演じています。そして、オルデンシア姫のオッタビア・ピッコロの可愛さが印象に残っています。さらに、悪役の大佐であるスタンリー・ベイカーの好演も光ります。The Maskとはゾロがかぶっているマスクのことですし、The Markとはゾロが剣で相手の服に刻み込むZのマークのことを意味しています。なにしろ簡単なストーリーの勧善懲悪ものですが、こういう映画は主演によって決まります。アントニオ・バンデラスのゾロはなんとなく颯爽としていませんし、相手役のキャサリン・ゼタ=ジョーンズがあまり決まっていない感じがしました。キャサリン・ゼタ=ジョーンズはやはり「エントラップメント」が最高だと思っています。

話がそれましたが、いまゾロをやるとしたら、やはりジョニー・デップでしょうか。でも、相手役の可愛い女性というのが、どうもハリウッド女優にはいそうもありません。ですので、「アラン・ドロンのゾロ」を超える「怪傑ゾロ」は作られそうもないと勝手に思っています。

重いテーマですが、名画だと思う「暗黒街のふたり」2013年05月06日 10時49分34秒

ジャン・ギャバンとアラン・ドロンという、世代はちがいますが、ギャング役者として有名になったふたりの俳優が、保護司と元服役囚という役をみごとに演じきった映画です。最後のなんとも言いようのない、救いのないエンディングはこの映画を重いものしていますが、個人的には名画だと思っています。

監督はジョゼ・ジョヴァンニ、元マフィアだったと言われる人で、数々のフィルム・ノアール作品を生み出しています。そのジョヴァンニが単なるギャング映画ではなく、罪と罰、法治国家の矛盾を鋭く突いた作品がこの「暗黒街のふたり」(Deux Hommes dans la Ville、1973年)です。刑期を終えて出所し、更正しようと努力するジノ(ドロン)と、保護司で更正の手助けをするジェルマン(ギャバン)。ジノには恋人ルシー(ミムジー・ファーマー)ができ、なおさら人生をやり直そうと張り切るのですが、そこに現れたのは以前にジノを逮捕したゴワトロー警部(ミシェル・ブーケ)でした。ゴワトローは執拗にジノにつきまとい、ジノの更正を邪魔するように、元犯罪者であることを勤め先に密告するのです。

こうしてジノは更正したくてもできない方向に追い詰められて行くのです。そして、我慢の限界に達したジノはゴワトロー警部を殺してしまい、殺人罪に問われるのでした。

なぜゴワトローがそれほど執拗にジノにつきまとって邪魔をするのか、その理由は明らかにされませんが、一度罪を犯した人間は一生その罰を受ける、という意味なのか、それとも社会というものは不条理なものだ、という一種の実存主義なのか、メッセージは明確ではありません。にも関わらず、この映画に惹きつけられてしまうのです。

キューブリックらしさにあふれた「FMJ」2013年05月05日 20時38分08秒

「フルメタル・ジャケット」(Full Metal Jacket、1987年)はベトナム戦争をテーマにした戦争映画ですが、鬼才スタンリー・キューブリック監督らしい異色のベトナム戦争ものとなっています。なお、Full Metal Jacketとは軍用小銃などの弾頭が完全に銅などで覆われていて、弾体の鉛が露出していないもののことで(ダムダム弾を禁止したハーグ陸戦条約に基づくもの)、ふつうFMJと略します。

前半はアメリカ軍海兵隊の訓練キャンプでのエピソードで、ハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)という鬼教官が新兵たちを徹底的にしごき倒します。主人公のジョーカー(マシュー・モディン)は軍曹の罵詈雑言にも平気で言い返すほどですが、同僚のレナードは太っていて動作がのろいなどで、ハートマン軍曹に徹底的にいじめられ、仲間からもリンチを受け、最終的には軍曹を射殺し、自分も自殺してしまいます。「微笑みデブ」と呼ばれ、存在感のある役でした。ジョーカーの仲間にはカウボーイと呼ばれる勇敢な兵士もいます。

後半はベトナム戦争の古都フエ(ユエ)でのベトコン(南ベトナム解放戦線)との市街戦で、ジョーカーの属する分隊は、分隊長がブービートラップ(手榴弾などを仕掛けたわな)にかかって戦死し、指揮を引き受けたカウボーイもベトコンの狙撃兵に撃たれてしまいます。ようやく、追い詰めた狙撃兵は少女だったため、ジョーカーたちは躊躇するのですが、「撃って」と懇願する負傷した少女に引き金を引くのでした。そして、ベトコンの攻勢をなんとかしのいだ海兵隊は「ミッキーマウス」の歌を歌いながら行軍していくのです。

ハートマン役のリー・アーメイは実際に海兵隊の元教官であり、その罵倒ぶりは真に迫っています。また、ジョーカーは「Born to Kill」(生まれながらの殺し屋)とヘルメットに書いていますが、この訳などを巡って、字幕担当の戸田奈津子から原田真人に替わっています。また、輸送ヘリコプターの機関銃手の「逃げるヤツはみなベトコンだ。逃げないヤツはよく訓練されたベトコンだ」と言いながら、機関銃を撃ちまくるシーンも有名になりました。

反戦映画と言われることもありますが、戦争の実相を描いたという点では、「プラトーン」をしのぐものがあると思います。